平成30年度発足 新学術領域研究
発動分子科学

代表あいさつ

発動分子科学 エネルギー変換が拓く自律的機能の設計

東京工業大学
生命理工学院

教授 金原 数

ナノスケールで機械のように動く分子すなわち「分子機械」は、1960 年代にFeynman がその概念を提唱して以来、ナノテクノロジーの究極の目標とされてきました。2016 年のノーベル化学賞の受賞研究は「分子機械の設計と合成」でしたが、半世紀を経てようやく合成分子に機械的な動きを起こさせる手法が確立したと言えます。次はいよいよ機械的な動きがもたらす独自機能を実現する段階にあります。一方、分子生物学や生物物理学の発展に伴い、我々の体の中には機械的な動きを起こす「生体分子機械」と呼ばれるタンパク質が多数存在し、生命活動の多くがこれらの分子の機械的な動きにより支えられていることが明らかになってきました。

これらは主にATP という化学物質の分解エネルギーを利用して機械的な動きを起こし、別の形のエネルギーに変換する働きを担っていますが、「分子の機械的な動き」に「エネルギー変換」という機能を持たせることで、様々な機能発現が可能になることを示唆しています。また、物理学的観点からは、ナノスケールの分子で機械を構築すると、極めて高い変換効率が実現できるとされています。実際、最近、ATPの加水分解エネルギーをほぼ100%他のエネルギーに変換している実証例も報告されています。

これらを背景に、これまで、化学、生物学、物理学のそれぞれにおいて独自に研究対象とされてきた「分子機械」を、エネルギー変換という機能をもつ「発動分子」という共通概念の元に融合する必要性を強く感じるに至りました。化学、生物学、物理学の積極的な異分野連携により、発動分子を構築するための新しい学理を創出できれば、分子という微小な素子により多様なエネルギー変換が可能となるため、エネルギー問題に対する新たな革新的アプローチを提示することができます。その意義は学術分野に留まらず、社会的にも極めて高いと期待されます。これらを背景に、志を同じくする様々の分野の研究者に参画いただくことで、本新学術領域の発足に至りました。