平成30年度発足 新学術領域研究
発動分子科学

発動分子科学について

本領域の目的

本領域では、外部エネルギーを受け取ることで機械的な構造変化を起こし、これを利用して別の形のエネルギーへと変換する分子装置を、「発動分子(molecularengine)」と名付け、これを構築するための基礎学理を築くことを目的としています。このため、これまで異分野として独自に活動してきた合成化学、分子生物学、生物物理学、ソフトマター物理学、計測科学の専門家が連携して叡智を結集することで、ナノスケールの分子素子を組み上げ、さらにそれらをミクロスケールに組織化することにより、高効率でエネルギーを変換できる分子システムの構築を目指します。社会実装可能なデバイスの構築を見据え、様々なエネルギー源の利用可能性を探求します。

領域研究内容

本領域では、「発動分子科学」の概念を確立するために、比較的単純な構造の小分子、タンパク質のような高次構造形成可能な高分子、これらを集積化した分子集合体、というスケールの異なるそれぞれの階層において、機械的な動きを介したエネルギー変換、すなわち「発動」を実現するための論理の構築を目指します。
この目的のため、人工分子機械、生体分子機械、分子集合体研究において実験、計算、理論の各専門分野で実績を挙げている研究者を対象として、

A01: エネルギー変換分子素子の合理的設計
B01: エネルギー変換機能を有する分子集団運動の設計
C01: 発動分子の精密分析
C02: 発動分子の理論解析

の4つの研究項目を設定しました。

A01 は合成化学によるボトムアップ構築、遺伝子工学的手法による異種分子間の部品交換やキメラ化、進化分子工学、計算科学による合理設計などにより、多様なエネルギー源を別のエネルギー形態に変換する分子素子の創造を行ないます。
B01 においては結晶、液晶、高分子フィルムなどによる、人工分子、生体分子、ハイブリッド分子の集積化及び集団運動を利用したエネルギー変換に挑戦します。
C01 では高速AFM、光学顕微鏡1 分子計測、X線結晶構造解析、物理化学解析による発動分子の精密解析から、分子素子や分子の集団運動によるエネルギー変換機構の理解及び細胞外での応用を容易にする耐熱化予測技術などの開発を行ないます。
C02 は計算科学や物理学的手法により、分子素子及び分子の集団運動におけるエネルギー変換メカニズムを解明し、発動分子のde novo 設計への道筋を開きます。

期待される成果と意義

機械的な動きにより、化学結合や、電気、力学、光等の様々な形態で貯蔵されたエネルギーを、利用可能な他のエネルギーに高効率で変換するエネルギー変換分子システムの設計指針が得られる。これにより、自律的なエネルギー変換の新しい可能性を提案できると期待されます。